【書評】【漫画】青野春秋「五反田物語」(小学館)

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久々のブログ更新です…

青野春秋「五反田物語」という漫画を読みました。結構面白かったですね。著者は、最近映画にもなった「俺はまだ本気出してないだけ」の人、と言えばわかるでしょうか。この「五反田物語」は著者の自伝(ですかね?)なんでしょうか、巻末の対談を読むと「おお?」と思う部分が。

 

内容は、

 

地方から上京した青年がバイト先の先輩と出会い、不思議とその先輩から

気に入られ食事をおごってもらうことに。そして、なぜかアレの方まであてがわれ…

そして、五反田のラブホで「美心(みしん)」という27歳の女性と出会います。彼女も主人公の朴訥な人柄に惹かれたのか、いつしか「外で会わない?デートしよ」と誘います。

それから、何度もデートを重ねるうちに、「美心」の自宅マンション(五反田にあるらしい)に行き来するうちに、彼女から「一緒に暮らさない?」と言われ…

 

という話です。

 

そういえば、五反田ってディープな街というか、駅の周辺ってラブホテルやら飲食店やらパチンコ屋やら雀荘やらボクシングジムやら色々ありますね。五反田駅のあたりは、どちらかというと新宿とか池袋に近いテイストを感じます。

 

この作品、絵自体は正直上手いとは言えないし、登場人物の表情も乏しいはずが、意外と感情というか感興が伝わってくるものですね。ヒロイン的存在の「美心」もどこか謎めいていて、そして純情です。彼女はなぜか本名や過去を決して明かしていませんし。あと「美心」という名前を自身につけたネーミングセンスも凄いですね。

 

それにしても、こういう話ってあんまり無いとは思いますが、なんとも不思議で印象深い作品でした。

 

最後に、印象に残ったセリフを引用。主人公から「なんで美心は昔の話をしてくれないの?」という問いに美心が言った言葉です。

 

美心「だって私の昔の話したって意味ないじゃない?私はね、今、ハルくん(注・主人公)と暮らしててとっても幸せなの。だから昔のこととかどうだっていいの…今はハルくんとデートしたり旅行に行ったり毎日がとっても楽しいのね。それが一番大切なことだと思ってるの…今は それでいいと思わない?」

【書評】三浦哲郎「忍ぶ川」(新潮文庫)

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本作は芥川賞受賞作で映画にもなった作品。

表題作は全体的に「生きる意志の強さ」が感じられる作品だった。場所は、東京の洲崎(一時期は遊郭だったという)という街が出てくる。東京の失われた風景が読んでいて伝わった。

 

同書に収録されていた作品で「驢馬」という作品は他の作品とテイストが違う異色作。満州人留学生を主人公にした作品で、舞台は戦時中の日本。「忍ぶ川」とはかなりカラーの違った感じであった。

【書評】高橋一雄「つまずき克服!数学学習法」 (ちくまプリマー新書)

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「小四の算数」が数学嫌いの第一の分岐点というのは同感。

あとの分岐点は著者によると、「中一の数学」「高一の数学」ということだが、これは徐々に抽象度が高くなり難しくなるということからきているという。算数・数学に「なぜつまずいたのか」「なぜ難しいと感じるのか」という疑問に応えてくれる好著。

著者の高橋氏は大学受験に四回も失敗したという経歴の持ち主(ちなみに東京学芸大学卒業)。そんな著者だからこそ「なぜつまずくのか」「なぜ難しいと感じるのか」ということを身にしみてわかっているのだろうと思う。そのあたりはとても共感を覚えた。

また、活字を読むことの重要性を指摘しているのも良かった。いわゆる国語力の問題なんでしょう。

【書評】倉田百三「出家とその弟子」(新潮文庫)

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浄土真宗の祖とされる親鸞と弟子の唯円を中心とした戯曲。

 

著者の倉田百三(1891~1943)は大正・戦前期に活躍したベストセラー作家だったが、今日の評価はどうだろうか。

 

内容としては親鸞の子・善鸞や唯円を巡る恋愛・性などが描かれる。

一応、親鸞が出てくるのだが、彼が「罪のゆるし」とか「隣人を愛せ」というのは、なんか違和感。こう思ったのは私だけではないようで、仏教学者の末木文美士氏は「仏教として見るにはおかしく、いかにもキリスト教的」としているし、出版当時から内容について批判は多かったらしい。

 

また、舞台は鎌倉時代になるのだが、なんとも現代的な印象は読んでいて感じた。

 

でも、愛とか恋とかに悩む登場人物を描いた本作、私は結構好きです。

【書評】【漫画】中川学「僕にはまだ友だちがいない」(メディアファクトリー)

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漫画の感想文、記念すべき第一冊目です。

 

本書は、主人公の中川学さん(35歳)は漫画を描きつつダンボール運びの仕事や皿洗いの仕事などで生計を立てる日々。そんな彼の悩みは「友だちがいない」こと。「このままだと、本気でマズいかもしれない」と一念発起、彼の友だちづくりの奮闘が綴られているコミックエッセイです。

 

読んでいて、著者(中川さん)の友だちづくりの具体例の一つ一つに感心したり、見につまされたりしますね…

 

例えば、twitterをやってもフォロワーも増えず、交流も深まらないばかり。これでは駄目だとフェイスブックを始めるも、著者の「歴代のマドンナ(好きだった人)」は苗字が変わっていたり、昔の友人を見つけたけど社交辞令で終わり…

 

その他にも「加藤諦三やカーネギーの自己啓発本を参考にする」「オフ会に参加」「近所のバーに行ってみる」「サブカルイベントに参加する」などなど。果ては、キリスト教の教会(見た感じカトリックの教会でしょうか)に参加してみるなど、いろいろやってたんですねぇ、と感心。

 

数々の試行錯誤を繰り返した末、著者にも「この人は?」という人に出会います。さて、その行く末は、中川さんに友だちは出来るのでしょうか?詳しくはぜひ本書をご覧になって下さればと思います。

 

私が読んだ感じ、なんか恋愛とも通じる感じがしましたね(本書はそういう話ではありませんが…)。また、本書のいいところは、その結末です。すごくいい読後感、爽やかな余韻を残すものになっています。

【書評】濱口桂一郎「日本の雇用と労働法」(日経文庫)

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本ブログの記念すべき第一冊目にはこの本をチョイスしてみました。

読んだ感じとしては、いい意味で教科書的で手堅い、という感じです。日本型雇用システムと労働法制が判例を交えて語られるので理解が深まります。

 

本書は、日本型雇用システムを「職務の定めのない雇用契約」として、これを中心に「年功賃金制度」「新卒採用」「定年制」、そして、日本型雇用システムの周辺の置かれた「女性労働者」「非正規労働者」「中小企業労働者」について語られています。

 

個人的には非正規雇用問題に関心があるので、この本は非常に役立ちました。なんといっても、判例が豊富に書かれていますし、雇用のあり方を明治時代、戦前まで遡りつつ順を追って書かれているのが理解が深まって良かったです。

 

ただ、読んでいて「なんだこりゃ、難しい…」と思ったのが、35~45頁のあたりですね。この「雇用契約」のあり方は一度読んだだけでは、正直よくわからなかったです。何度も同じ場所を読み返すうちに、だんだんわかってきた、という感じでした。

 

雇用契約はメンバーシップ契約だが、法律学的には間違い。なぜなら、日本国の民法は、雇用契約を労働に従事することと報酬の支払いを対価とする債権契約と定義しているから」

 

という趣旨のことを本書で書いてありまして、一瞬「うん?」となったわけです。

それもそのはず、日本だと法律では職務に定めのある「ジョブ型雇用契約」を念頭においてるものの、実際に世の中は職務の定めのない「メンバーシップ型雇用契約」が主流になっている。そして、裁判所での個々の判例は後者に依拠している、ということです。

 

このあたりは私の理解力がなってないせいのかもしれませんが、やっぱり一度ではよくわからなかったです。ことほどさように、日本型雇用システムと労働法制は微妙な齟齬というか難渋さがある気がしました。